受験生と受験関係者の信頼のために。
「間違いのないデータ」こそ、私たちの責任と誇り。

倉賀野 次郎 / 雑誌編集

求められるのは“プロトコル”。
ルール・手順を守りつつも、
イレギュラーなケースは臨機応変に判断する。

旺文社が刊行する大学受験情報誌『螢雪時代』には、月刊誌と年7回刊行の『臨時増刊』(以下、『臨増』)があり、私は『臨増』の編集長を務めています。高校の教室や進路指導室に置いてある、全国の大学のデータが掲載された分厚い本というと思い出していただけるかもしれません。

私は月刊誌の編集長を務めた経験もあるのですが、月刊誌など一般的な雑誌の編集に求められるものが「クリエイティブ」だとすると、『臨増』で大切なのは「プロトコル(=手順、規格)」とも言えます。『臨増』は商品としては雑誌ジャンルに分類されますが、いわゆるデータブックなので、何よりもまずは正確であることが求められます。間違いが起こらないよう、抜け漏れがないよう、ルールや手順を決めてそれを守りながらつくることに日々尽力しています。原稿は全国に約800校ある大学に対して発送、回収したアンケート結果が元になります。最新のデータを誌面に落とし込み、それを社内・社外の校閲に出し、文言や図版が正確であることを確認して入稿・校了します。こうした一連の作業を、編集プロダクションなどと協力しながら進めています。

一見するとルーティン業務のように思えますが、イレギュラーなことも少なくありません。特に大学の学部・学科の新設や改組があったり、入試が大きく変わったりする年は、締め切りギリギリまで原稿が確定しないことも。翌年の新設予定とされていたものが、文部科学省の認可が下りずに取り下げや再申請になってしまうようなケースもあるので、判断力が求められるシーンも多いですね。

合格者からの嬉しい知らせ。
大学からの叱咤激励。
どちらも、編集部にとっては貴重な声。

『螢雪時代』編集部に配属になって7年ほどになります。月刊誌の担当として異動してきた当初は、ある種のカルチャーショックを受けたのを覚えています。大学入試関係の業務は初めてだったので新鮮でしたし、編集部員全員が「読者(受験生)のために役立つものをつくろう」と日々真剣に考えていて、そのためにはどんな企画がいいだろう、いつどんな見せ方であれば伝わるだろうか、と試行錯誤していたことが何よりも強く印象に残りました。春になると、読者から編集部に「『螢雪時代』のおかげで合格できました」「お世話になりました」というハガキや手紙が届くことがあります。編集部員の努力が伝わったのだと、感動を覚える瞬間です。そういった環境で月刊『螢雪時代』の編集長を務められたのは、幸せな経験でしたね。

一方、『臨増』に届く声は、基本的には大学からのご要望やお叱りも含めたご意見が大半です。ただ、それは大学や教育関係者の方々に情報源としていかに頼りにされているかということの現れでもあります。そんな媒体の制作に携われるのは誇らしいことだと捉えられるようになりました。

偶発的な出会いが、紙媒体の魅力。
変えてはいけないものは守り、変えるべきものは変える。
すべては読者のために。

インターネットで検索すれば、知りたい情報をすぐに得られる今の時代において、「紙媒体の存在意義とは何か」という問いは、常に抱いています。実際、『臨増』に掲載しているデータは、旺文社が運営する情報サイト「大学受験パスナビ」でも利用することができます。では、違いは何か。パスナビで最もよく使われる機能は大学情報検索で、利用者は大学を決め打ちで調べるんですよね。自分が知りたい大学の名前で検索するので、その大学の情報しか目に入らない。一方、紙媒体の場合は、検索のきっかけは知りたい大学でも、その周りに似たような学部・学科がある大学の情報が掲載されていたりして、思わぬ発見がある。その偶発的な出会いが、紙媒体の魅力なんだと思っています。

『臨増』のようなデータブックで大事なのは、使い勝手です。データの載せ方やページの構成といった「型」を大きく変えてしまうと、知りたい情報にたどり着きにくくなり、困ってしまうのです。読者のことを考えると、なかなか大胆に変えることは難しいし、変えてはいけない部分もあると思っています。一方で、時代に合わせて変えていかなくてはならない部分もある。商品としてのかたちだけでなく制作体制や仕事の進め方、働き方も含めて、変えていくべきところは変えていきたいですね。「変える」「変わる」はパワーが必要ですが、変わっていかなければ読者のニーズを満たすことができませんから。

私が愛用していた参考書

参考書ではありませんが、小学生のころに買ってもらった旺文社の『学習図鑑』シリーズ(絶版)を、1日中読んでいました。例えば「魚」の刊では、食用かどうかまで記載してあり、そこに「おいしい」とか「まずい」とか書いてあるんです。子ども心に「それは主観だろう…」とか思いながら読んでましたが…(笑)。いろいろな知識が身についたのもありますが、頭の中にデータベースをつくる習慣がついたのは、『学習図鑑』シリーズのおかげかもしれません。時を経て、いま、大学の図鑑のような本をつくっていることには不思議な縁を感じますね。

いま、学んでいる皆さんへ

難関大学を選ばなければ誰もが大学に進学できる「大学全入時代」と言われるようになって久しいですが、いまはさらに、現役合格すら当然という時代になってきました。そして、大学も学部・学科も、バリエーションが豊かです。多様な選択肢が誰にでも与えられている一方で、「何のために学ぶのか」がつかみにくい時代になっていると感じます。「これを学んでおけば(就職など)将来の役に立つはず」という視点は、厳しい時代の生き残り戦略として有効だとは思いますが、それだけで判断するのは個人的にはおすすめしたくありません。ぜひ、自分が学びたいこと、好きなこと、夢中になれることを突き詰めてほしい。それが、「知の多様性」にもつながるでしょうし、その多様な知の中の何かが世の中を少しでも変えるきっかけになるかもしれないーー私はそんなふうに思っています。

図解全訳古語辞典

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