古語辞典の新しい可能性。
イラスト、図、表などをふんだんに使って、
学習者と古文の距離を縮めたい。

藤倉 尚子 / 編集

「堅い」「難しい」と思われがちな古文を、
「親しみやすい」「わかりやすい」に変える。
そのための工夫が、全1,100ページに。

私が所属している編集部では国語辞典、漢和辞典、古語辞典、ことわざ辞典などの国語系の辞書を編集しています。旺文社が特に伝統的に力を入れてきた古語辞典は、上級・中級向けとラインナップがそろっており、定評があります。

私がチーフとして携わったのは、高校生向けの辞書としては15年ぶりの新刊となる『旺文社図解全訳古語辞典』。収録語数は約15,000語で、初級〜中級者を対象にしています。刊行の狙いは、親しみやすさです。そもそも辞書は言葉を解説するものなので、文字がぎゅっと詰まっていますよね。さらに、使い慣れていない古語となると、「堅い」「難しい」「わかりにくい」というイメージを抱いている方も多いと思います。そこで、イラストや図表をふんだんに使い、直感的に「見てわかる」紙面づくりを心がけました。古典文学の中から重要な20作品をピックアップした特集では、インフォグラフィックという視覚的に情報を伝える手法を採用。古語辞典としては出版界初のオールカラー仕様で、読者の古文に対する抵抗感を払拭していきたいという意気込みです。

誠実に向き合う3年間。
迷ったとき、常に妥協せず立ち戻ったのは、
「読者のためになっているか」という視点。

スピード感が求められる参考書などでは、企画から刊行まで半年というものもありますが、辞書は3年という長い時間をかけて編集します。高校に入学した生徒さんが卒業してしまうくらい長い時間ですよね。制作に関わる人数も多く、編集部の全メンバー、編者・執筆者の先生方、グラフィックデザイナー、編集プロダクションなど大勢の方の知恵やアイデアが一冊に詰まっています。

従来の辞書であれば、掲載されている語釈(語句の解釈)の「正しさ」が最大のチェックポイントですが、『旺文社図解全訳古語辞典』では、それに加えて「親しみやすさ」も重視したため、異なる視点から出るさまざまな意見を集約していくのには本当に苦労しました。それを乗り越えられたのは、チーム全体で「読者のために」という一点が共有できていたこと。「この辞書を初めて開いたときに、読者がどう感じるか?」 迷ったときには、妥協せずそこに立ち戻るようにしていました。

ページをめくる度に、発見や気付きが生まれる。
私が辞書にこだわり続けるのは、
その瞬間に、産みの苦しみが報われるから。

旺文社に入社して15年、一貫して辞典の編集畑を歩んできた私が、これまでに携わった辞書は10冊を超えました。編集部内では、辞書編集は「田植え」という表現を使うほど、気の長い仕事です。1,000ページを超す辞書は、印刷工程に入るまでに合計5回は本文を読み返します。古語辞典の場合は、高校の古典の教科書、大学入試問題をチェックし、他社から出版された古語辞典も参考にします。さらに、古典文学の研究で新しい学説や解釈が出ることもあるため、論文なども確認します。古語そのものは変わりませんが、実はその捉え方は変化しているのです。それら周辺情報の変化を反映し、辞書は常に進化しなくてはなりません。

現在、私たち編集部でも紙面のPDF化、アプリ、デジタルブック、オンライン辞書など、辞書コンテンツと新しい技術を融合させたサービスを開発しています。それと同時に、私は紙の辞書そのものの魅力ももっと見直し、深掘りしていきたいと思っています。一語を調べるためにページを開くと、隣の語も目に飛び込んでくる。語釈を読んで、古典作品にも興味がわく。そうした行為を通じた気付きの連鎖が辞書にはあるはずです。辞書が、読者の皆さんのそうした変化に寄与できたとき、私の仕事も「収穫」を迎えるのかもしれません。

私が愛用していた参考書

自分で言うのも変かもしれませんが、私は真面目な学生だった気がします。ただ、好奇心は旺盛で、高校生当時は知らないことを学校で教えてもらえるなんて、ありがたいなあと思っていた記憶があります。大学では古文を専攻しましたが、そのきっかけになったのが『旺文社古語辞典(第8版)』でした。何度も何度も同じ語を辞書で引く自分にはイライラもしましたが、少しずつ読めなかった古文が読めるようになっていく。そんな実体験があるからこそ、辞書編集という、いまの仕事に誠実に向き合えているような気がします。

いま、学んでいる皆さんへ

「自ら休み、自ら怠る」。これは鴨長明の『方丈記』の一節です。学んでいる最中は、いいときばかりではないですし、落ち込むこともありますよね。そんな時には、休んでみたり怠けてみたりしてもいいと思います。「また前に進むことができる。また真剣に取り組むことができる。」ーー心のどこかでそう確信していれば、必ず同じ場所に戻れます。…というようなことを、社会人になったいまも日々実感していますし、私なりに実践しています。

図解全訳古語辞典

『旺文社図解全訳古語辞典』

大事なことが「見てわかる」、オールカラー古語辞典!
古文世界を実感できる図表・イラストが満載。
教科書・入試問題を分析して15,000語を収録、用例には丁寧な現代語訳を付けました。
古文の学びはじめから大学受験まで、安心して使える一冊です。

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