いま学ぶ人にも、数年先に学ぶ人にも、
必ず届けたい良書がある。
そのための模索に、終わりはない。

青木 伸一 / 営業

良書をつくり、多くの読者に届ける。
同じ目的を持っていても、
議論を闘わせるのが営業と編集。

営業1年、書店出向1年、編集12年、そして営業13年。私の会社員人生はかれこれ30年弱になりますが、立場が変わるごとに「学び」の連続だったなあ、というのが偽らざる本音です。同じ「本を売る」でも、出版社の営業と書店員とでは意識も違えば、労働時間も違います。同じ「本をつくる」でも、営業視点と編集視点には大きな違いもあるのです。そうした異なる視座を持てていることも、また私の財産なのかもしれません。

もちろん営業と編集には「良書をつくって、より多くの読者に届ける」という共通の目的があります。しかし、重視しているタイミングがそれぞれ別にある場合も少なくありません。営業は書店と密な関係を築きながら、数カ月後の棚づくりをイメージしなければなりませんので、発行部数のシミュレーションに時間をかけています。本が不足してはいけませんし、余剰分が出すぎてもいけない。年間スケジュールの中で、人員配置やプロモーション時期を事前に設定し、ベストのタイミングで書店に提案しています。一方、編集はとにかく中身の精査に時間をかけるのが正解。足並みが揃うのが理想的ですが、営業と編集は熱い議論を闘わせる間柄でもあるんですね。

改訂自体がニュースになる『英単語ターゲット1900』。
出版直後ばかりでなく、
2年後、3年後を見据えて評判をつくる。

『英単語ターゲット1900』(以下、『ターゲット1900』)が改訂され、書店に並ぶことになったのは2020年初頭のことでした。『ターゲット1900』はすでに大学受験生から高い認知度を誇りますし、学校や塾の先生からも推薦されている英単語帳です。つまり「改訂する」という情報自体にニュース性がありました。私たちもそのことを念頭に置き、通常なら1・2カ月前ですが、今回は4カ月前にあたる前年の9月ごろには全国の書店に向けて告知をスタートさせるなど、目玉企画として早め早めに動いていました。

全社一丸となった取り組みにより、書店では予備校生が多いエリアをはじめ大型店舗で各種プロモーションを展開することができ、『ターゲット1900』のリニューアルはインパクトのあるニュースとして受け止めていただけました。書店内エレベーターの扉や書店の壁面に25枚のB1サイズの大型ポスターを掲出していただいたり、書店員さんに手書きのPOPを設置していただいたり。加えて私たちが取り組んだのは、新しくなった『ターゲット1900』を高校の先生、予備校の先生に見せ、「受験生に薦める理由」を伺って冊子化し、書店に置くことでした。「何がよくなったのか?」「どのようによくなったのか?」、受験勉強で使用するメリットを、これから学ぶ高校生に伝えていく。私たち営業は、本が出版された直後ばかりでなく、2年後や3年後の次の世代まで見据えたプロモーションを企画しているんです。

改訂前よりも売れ行きを伸ばした『ターゲット1900』。
常にアンテナを張り巡らせた理由は、
心の底で、いつも「学ぶ人」を応援する自分がいるから。

そもそも私は、決して出来のよい学生ではありませんでした。だから、営業という立場として本の中身に意見するときには「昔の自分だったらどうだろう?」という視点で伝えるようにしています。そうは言っても、今時の若い皆さんのスタイルや価値観をすべて把握できるわけじゃない。そんなときには、高校生と大学生になる我が子の意見も参考にします。そこまでアンテナを張り、ネットワークを駆使してまでこの仕事に没頭できるのは、やはり「学ぶ人」を応援したいという純粋な気持ちがあるからだと思っています。おかげさまで『ターゲット1900』は、2020年は23万部を販売することができました。改訂前を大幅に上回る数字になったということは、ありがたいと同時に身の引き締まることでもあります。それほど大勢の受験生が『ターゲット1900』に期待しているという意味ですから、自分の責任は重大だと思います。

『ターゲット1900』を活用するとどう効果的なのか。それを世の中に発信するための模索は、今後も続きます。先輩の声だけでなく、学校や予備校の先生に語っていただく。YouTubeのような動画を活用して販促を行う。「学ぶ人」の応援には終わりがないというのが、いまの私の心境です。

私が愛用していた参考書

大学受験時には『鉄則』シリーズという、数学の参考書を使いました。『鉄則』シリーズは、かつて旺文社が主導した「大学受験ラジオ講座」の講師を務められた寺田文行先生が著者で、当時、受験生のバイブルのような存在でした。私が出版社を志したのは、他の業界に比べて「最初から最後まで」すべてのプロセスに携われるように思えたからです。入社後、編集、営業、書店と各段階を味わえたことは幸運だったのでしょうね。「学ぶ人」を理解するためのアプローチは、いくつもあった方がよいと個人的には思っているので。

いま、学んでいる皆さんへ

もはや時代錯誤の発言だと自分でも思いますが、「騙された」と思って、参考書と一緒に学習アプリも使ってみてください。テキストあり、解説あり、利用者の声あり、中には音声や動画まであるものもあります。高校生当時、発音記号が読めず、リスニングが苦手だったので、旺文社に入社して英語の書籍をつくる立場になって「音声にはカタカナ解説をつけましょう」と豪語したものですが(笑)、CDもDVDもない時代に勉強していた私からすると、本当に便利な世の中になったものです。ツールが増えて複雑になってしまう懸念もありますが、五感で学ぶことは習得効果も高めると私は思いますね。

『ターゲット』シリーズ

2020年、多くの大学受験生に支持されてきた『ターゲット』が、8年ぶりに全面改訂しました。「でる順」配列、「1つの単語に1つの意味」など、『ターゲット』ならではのよさはそのままに、例文の覚えやすさがパワーアップするなど、さらに進化しています。

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