21.貿易開始によって,国内にはどのような経済的影響が生じたのか。
(本文第61問対応)
▶ 解答例・視点・ヒント
- 物価騰貴を招き,下級武士や庶民の生活を圧迫した。これを金銀の交換比率・繊維産業の動向・流通機構の変化・貨幣改鋳などの側面から考える。
▶ 基本事項の整理
- 貿易の開始によって綿織物や綿糸が大量に輸入されたため,国内農村の綿業や綿織物業が打撃を受けた。生糸は重要な輸出品となったが,原料不足となったために国内の絹織物業は圧迫された。居留地貿易が行われる中で,在郷商人が製品を横浜に直送するなど従来の流通機構にも大きな変化が生じたため,幕府は江戸の問屋を保護するために1860年に五品江戸廻送令を出して貿易統制を試みたが,効果はほとんど上がらなかった。また,金銀比価の相違から大量の金が海外に流出したため,幕府は1860年に金の含有量が少ない万延小判を鋳造して金の流出を阻止しようとしたが,貨幣価値の下落は物価騰貴に拍車をかけ,庶民生活を圧迫した。
▶ 補足・発展
- 貿易は1859年から横浜港を中心に始まり,相手国ではイギリスが首位となった。日本からは生糸・茶・蚕卵紙などの半加工品が輸出され,毛織物・綿織物などが輸入された。当時ヨーロッパで蚕の病気が流行っていたために生糸や蚕卵紙の需要が多く,アメリカに起こった緑茶ブームの影響で茶も重要な輸出品となるなど輸出は好調で,輸出超過は1866年まで続いた。また当時,金銀比価では日本では金:銀=1:5,外国では金:銀=1:15だったために約10万両もの金が海外に流出したといわれる。インフレーションは人々の生活を圧迫したため,各地で一揆や打ちこわしを誘発し,貿易を始めた幕府に対する不信不満が増大する中で,外国人に対する攘夷運動も盛んになった。