メタファーとは

メタファーとは、抽象的な物事をより具体的で理解しやすい他の物事に「見立てる」ことを指す。例えば、「愛」は抽象的な概念だが、「炎」などの具体的なものに見立てることで、「心に(愛の)火がつく」などの表現が可能となる。従来、メタファーは修辞的な技法であり「言葉の装飾」として捉えられてきたが、認知言語学の発展により「思考を形成するもの」(概念メタファー)であることが明らかになってきた。このことを確かめるため、次の例を考えてみよう。

When Betty read the email, she exploded.

そのメールを読んだ時、ベティの怒りが爆発した

explodeは文字通りには「爆発する」という意味だが、爆発したのはベティ自身ではなく、ベティの「怒り」である。この表現の裏には、「【怒り】は【容器の中の液体】である」というメタファーが隠れている(⇨ANGER  )。

このメタファーは、前述の表現だけに当てはまるのではなく、ほかにも様々な表現の基礎となる。例えば、

My anger is welling up.

私の怒りはこみ上げてきている

という表現は、容器の中で増加する怒りを、

I couldn’t contain my anger any longer.

もはや怒りを抑えることができなかった

は、容器に収まり切らない怒りを表す表現である。

このようなメタファーの生産性は、私たちの思考の基礎にメタファーが深く根付いていることを示している。つまり、「怒り」という抽象的な概念を、メタファーを通すことで具体的に理解し、体系的に表現することができるということであり、逆に言うと、メタファーが思考を形作るものであるということができるだろう。

メタファーは英語学習においても重要な役割を果たす。メタファーを知ることで、慣用表現や単語の意味の成り立ちや発想を理解することができ、ばらばらに記憶していた表現をグループ化することができる。また、意味の根源を理解することにより、単に日本語訳を丸暗記するよりも記憶に定着しやすくなり、言語の創造的な使用の足場ともなる。

本辞典では、学習上特に有益であると考えられるメタファーを20項目選定し、それらに基づいた表現を列挙・解説した。メタファーの構造が直感的にわかるよう、それぞれのメタファーは【抽象的な概念】(例:怒り)⇒【具体的な概念】(例:容器に入った液体)という形式で示した(前者が後者に「見立てられる」の意)。また、1つの概念が複数のメタファーで表現される場合は、それぞれのコラム内に併記した。さらに、メタファー表現の英語と日本語の異同についても適宜言及した。

(内田 諭)